貿易戦争の始まり

・今朝東部標準時午前 12 時 1 分丁度に、カナダとメキシコに対する米国の 25% 関税と、中国に対する 10% の追加関税が発効しました。発効する 25% の関税は、カナダとメキシコからの全ての輸入品に適用されますが、カナダのエネルギーには 10% の関税が課せられます。
・カナダとメキシコへの関税は米国の成長に逆効果となる可能性を考えると、発動する可能性は低い筈でした。その為JPモルガンによると、本日の関税発動により、現在準備中の他の多数の関税(EUの25%関税、銅、木材などの部門別関税、およびより広範な相互関税)が施行される可能性が高まり、単なる交渉戦術以上のものになる(それなりの実害覚悟)とされています。
・カナダと中国両国は直ぐに報復措置を取りました。カナダはオレンジジュースやバーボンを含む米国からの輸出品1550億ドルに対して2段階で25%の関税を課して報復。300億ドル分の物品には即時関税を課し、残りの1250億ドル分には21日以内に関税を課すとしました。
・中国は農産物が中国の関税対象になっているという昨日の報道に沿って、3月10日から米国からの大豆、豚肉、牛肉、果物に対する関税を10%引き上げ、鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花に対する関税を15%引き上げました。防衛関連事業に携わる10社の米国企業もエンティティリストに載せられています。
更に、中国税関は米国産木材の輸入を即時停止し、火曜日からCHS社(CHSCO)、ルイ・ドレフュス社、EGT社(BG)を含む米国企業3社の大豆輸入資格を停止。
中国商務部は米国の関税措置に対し、中国は対抗措置を講じて自国の権益を断固として守ると表明すると共に、米国の一方的な関税措置は不合理で根拠がなく、他者を害し、利己的であるとして、即時撤回するよう要求しています。
・下のブルームバーグのチャートは、中国と米国が課した関税を比較したものです。モルガンによると、中国に対する反応は穏やかで的を絞っている為センチメントは安定しており、今日の中国の発表を受けて中国株は反発しています。

メキシコはまだ正式な報復発表を行っていませんが、2月1日の期限前後にシェインバウム氏は「メキシコの利益を守るために関税および非関税措置を課す」と述べています(「情報筋」は豚肉、チーズ、生鮮食品、鉄鋼、アルミニウムに5%~20%の関税を課すと示唆している)。
メキシコ・米国貿易品目表では、メキシコは米国への純輸出国であり、これらの品目が関税の対象となる可能性があります。

中国からの為替報復措置の決定はおそらく全人代終了まで待たなければならないだろうことを考えると、USD/CNHの冷静な反応は以外ではありません。

カナダドルの場合、カナダドルに対する即時の市場反応が見られないのは、既存のリスクプレミアムが影響している可能性があります。
リスクプレミアムとは、投資家がリスクを取る事に対して要求する追加のリターンの事です。つまり、カナダドルに対する市場の期待や不安が既に価格に織り込まれている為、特定のニュースやイベントに対して即座に反応しない事があります。しかしこれは実際に実施された場合にUSD/CADが1.50を超えて急騰するという事前の予想に反しています。
JPモルガンによると、この価格変動を正当化する理由は3つあります。
- 市場はこれらの関税が恒久的なものとは考えておらず、カナダの報復措置が二段階構造になっており、第2弾の関税が3週間後まで延期される予定である事から、そう遠くない将来に関税が緩和される可能性(希望?)が示唆されている。
- 報復措置自体が米ドルの反応関数の性質を変える可能性がある。理論的には、均衡のとれた貿易体制における関税に対する対称的な報復措置は通貨調整を必要としない筈である。(通貨調整が必要ないというのは、報復措置が対称的であれば、両国の経済に与える影響が均等であり、為替レートに大きな変動を齎さないという考え方です。しかし、実際には市場の反応や経済の複雑さにより、通貨の価値が変動する事があります。
- CA/MXの報復措置による反動が米国の成長に打撃を与えるとの予想は、米国例外主義の亀裂に関する新たな物語を更に促進し、市場では、この米国の成長コストが最終的な交渉による解決のスケジュールを早める可能性もいくらか軽視している可能性がある。

ゴールドマンサックスの分析では中国に焦点を当てた関税の10%引き上げにより、米国の実効関税率は1.2%上昇し、コア価格は約0.1%上昇する事になっています。

- トランプの今回の中国への関税により、中国からの輸入品に対する平均実効関税率は約34%となり、中国からの輸入品に対する関税率の上昇は、第1次トランプ政権全体の上昇率の約2倍となる。
- カナダとメキシコに25%の関税(カナダのエネルギーには10%)を課すと、実効関税率は5.7ポイント上昇し、コア価格は約0.6%上昇する。

このグラフは、アメリカの関税率の変遷を時系列で示しています。
- 2017年: アメリカが環太平洋パートナーシップ(TPP)から撤退。
- 2018年: トランプ大統領が洗濯機、太陽光パネル、鉄鋼、アルミニウムに関税を課し、中国製品に対して2500億ドルの関税を導入。
- 2019年: トランプ大統領がカナダとメキシコに対する鉄鋼とアルミニウムの関税を解除。
- 2020年: トランプ大統領が新たな関税を課し、米中貿易戦争が激化。米中「フェーズワン」貿易合意が成立。
- 2021年: トランプ大統領が洗濯機に関する関税を延長。バイデン大統領が一部の関税を解除。
- 2022年: バイデン大統領が関税を延長し、一部を一時的に停止。
- 2023年: バイデン大統領がロシアに対する関税を引き上げ、洗濯機に対する関税が終了。
- 2024年: バイデン大統領が中国製品に対する新たな関税を発表。
ゴールドマンサックスデルタ 1 の責任者によるトランプ関税への評価

※デルタ1とはゴールドマンサックスのデリバティブ(金融派生商品)部門です。
・カナダとメキシコへの関税(特に25%)が永続すると考える人は殆どいません。本当の目的は、同盟国に中国に20%以上の関税を課させる事だと思います。したがって、この政策が突然反転するかどうか、今週後半に注目です(中国への関税は今後も続くと思います)。
・昨日は米国の顧客から欧州の株価上昇を見逃したかどうかを尋ねる電話が殺到しました(絶対的にはそうかもしれません)。防衛関連株の2桁の急騰と、地理的に幅広い上昇(これは、特定の国や地域に限らず、ヨーロッパ全体で防衛関連株が上昇していることを意味します。つまり、複数の国の防衛企業が株価を上げているという事です。)は、単純に財政余地の拡大(政府が防衛支出を増やす余裕がある事を示しています。)を反映しています。

・米国が一夜にしてウクライナへの資金提供を削減する事を決定したことで、この議論は加速するだけです(防衛分野では再び上昇が見込まれます)。
・(ヨーロッパの)規模と範囲の点では私たちは少し先走り過ぎたと思う。多くの広範な支出計画や新しい基金は、全てのヨーロッパ諸国で全会一致の支持を得る必要がある(特にハンガリーとスロバキアを考えるとハードルは高い)。とはいえ、米国がフォワードリターン(これは、将来の投資リターンを指します)の比較的悪い目的地であり続ける限り、ヨーロッパがアウトパフォーマンスを発揮するケースは残る。
・アトランタ連銀のGDPモデルは現在、-2.8%という極端に低い水準に達している。程度としては確かに誇張されているが、方向性はおそらく正しい。
・米国株式のセンチメント(米国株式市場における投資家の感情)は低く極端に感じられるが、ポジショニングがそれを反映しているかどうかはわからない。今夜の一般教書演説でトランプが敵対的になるのを覚悟している…関税撤回への希望は水曜日まで生まれないと思う。消費者については、ターゲットとベストバイ(アメリカの大手小売業者と大手家電量販店)に注目して見ている。
※ターゲットとベストバイは、消費者の購買行動やトレンドを反映する重要な指標となります。これらの企業の業績や売上は、消費者の信頼感や経済状況を示すバロメーターとして機能します。これらの企業に注目することで、消費者市場の動向や将来のトレンドを予測する手助けとなります。例えば、ターゲットの売上が好調であれば、消費者の購買意欲が高いことを示唆し、逆に売上が低迷していれば、経済の不安定さを反映している可能性があります。
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