ドイツ政府がウクライナ支援の為に3つの柱からなる前例のない財政パッケージに合意したと発表しましたが、それによる株価急騰について

欧州の通貨高や株高を支えている反映している期待先行が萎むと株価は急落する可能性が高い

· 投資
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ドイツ政府(次期連立政権を形成する可能性が高いキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD))は前例のない財政パッケージを発表しました。欧州の病人と言われているドイツ経済を活性化に向け、防衛費とインフラ支出を増やす為に、借入規則を全面的に見直す事で合意したのです。

具体的には以下の1~3の合意がなされました。

1. GDPの1%を超える国防費を債務ブレーキの制限から除外。

2. 今後10年間に渡って支出される予定の5,000億ユーロの予算外インフラ基金(2024年のGDPの11.6%)。これは、年間GDPの約1%に相当するインフラ支出となります。

3. 州に認められる構造的赤字を、現在のGDPの0.0%から0.35%に引き上げ。

これを受けてヨーロッパ株急騰が騒がれていますが、それがいつ暴落してもおかしくない理由をここでは紹介します。

前例のない財政パッケージ発表を受けて、ドイツの優良株指数DAX(ドイツ版の日経平均)は3.5%上昇し、過去最高値付近で取引されました。一方、中規模企業50社で構成される中型株指数は一時10%以上急騰し、3年ぶりの大幅な日次上昇となりました。

DAX⇩

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欧州全体のストックス600指数は1.55%上昇。欧州の建設・素材指数と航空宇宙・防衛指数はともに過去最高値を記録し、それぞれ5.6%と3.4%上昇しています。

STOXX⇩

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ドイツ最大の建設、エンジニアリング、武器企業は予想されれている政府支出の急増を前に株価が急上昇しました。

セメントメーカーのハイデルベルグ・マテリアルズは13.5%上昇

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工業サービス企業ビルフィンガーは19%以上急伸

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建設グループホッホティーフは15.4%上昇。エンジニアリング・鉄鋼企業ティッセンクルップは13.6%上昇、武器メーカーのラインメタルは5%上昇。

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こうしたヨーロッパマーケットの様子は世界から注目されています。

現在の欧州の金融市場は「思惑買い」が先行した、危ういバブル相場

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欧州の通貨高や株高は経済の実態を反映しているものではなく、あくまで期待先行です。

ドイツの10年債利回り(金利)が一昨日20ベーシスポイント上昇して2.689%となり、30年債利回りは18ベーシスポイント上昇して3.014%となった事について、ロンドンを拠点とする投資サービス会社プルリミ・ウェルスの最高投資責任者、パトリック・アームストロング氏はメディアに次のように話しています。

ドイツが例のない規模の財政パッケージを導入しようとしているが、承認されれば、ドイツの経済成長、財政赤字、債務予測が大きく上方修正される可能性がある。

  • 大規模な財政パッケージ: ドイツ政府が、通常では考えられないほど大規模な財政措置を計画している。
  • 承認のハードルが高い: このパッケージを承認するには、議会で3分の2以上の賛成が必要となる。これは通常の法案よりも高いハードル。
  • 時間的な制約: 新しい議員(先日ドイツ総選挙で議席を二倍にしたAFD・ドイツの為の選択肢)で構成される議会(第21回連邦議会)が発足すると、このパッケージが否決される可能性がある為、古い議会(第20回連邦議会)を3月25日に再招集し、承認を目指す必要がある。
  • 経済への影響: このパッケージが承認されれば、ドイツの経済成長、財政赤字、債務予測が大きく上方修正される可能性があります。つまり、ドイツ政府は2027年まで公的投資を増やし、経済成長を促進する事になります。

こうした状況を作った期待先行のヨーロッパ相場は危うさを孕んでいます。

そもそも、軍需産業はクラウディングアウト効果(民需を圧迫する効果)が強い公需です。その為、経済の成長を促すにしても、民需の圧迫を伴うものであるから、実質所得の増加には繋がりにくい。実際、軍需に近い産業は潤っても、遠い産業は干上がってしまいます。そうした経済成長モデルは持続続出来ません。

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それに、金利の上昇には景気拡大期待を反映した「良い金利上昇」と財政悪化懸念を反映した「悪い金利上昇」の2つがあり、防衛費の増額に伴う歳出の増加で生じる金利の上昇は、本質的には「悪い金利上昇」とされています

EU(特にドイツ)の防衛費増額が経済に与える影響について。

  • 防衛費増額とインフレ: 防衛費の増額は軍需産業を活況にし、一時的な景気浮揚効果をもたらす可能性がありますがインフレを刺激します。これにより、ECB(欧州中央銀行)の利下げが難しくなり、場合によっては利上げにつながる可能性もあります。ユーロ相場は一時的に上昇するが、利上げとなると株価は下落します。
  • クラウディングアウト効果: 軍需は民需を圧迫する性質が強く、経済成長に寄与するとしても、それは民需を犠牲にしたものである為、国民の実質所得増加には繋がり難い。特定の軍需関連産業のみが潤い、他の産業は衰退。
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  • 悪い金利上昇: 防衛費増額による金利上昇は、経済の健全な成長を反映したものではなく、財政悪化懸念による「悪い金利上昇」。本来であれば、このような状況ではユーロは売られるべきだが、実際には買われているという矛盾が生じています。
  • ドイツ経済への影響: ドイツは防衛費増額を迫られているが、技術的なハードルがあり、増額完了には時間がかかります。さらに不振にあえぐ自動車産業や化学産業を中心に失業者が増加する可能性があり、軍需産業がそれらを吸収できるかは不透明。軍需品生産優先により、民生品生産に必要な資源が不足し、ドイツ経済全体が圧迫され始めるかもしれません。
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  • バブル相場のリスク: 欧州の金融市場は「思惑買い」によるバブル相場と化しており、短期的なトレードが中心。米国の関税発動やウクライナ情勢の変化など、何らかのショックで価格が暴落するリスクがあります。
  • 結論: 欧州の通貨高や株高は経済の実態を反映したものではなく、期待先行であり、持続可能な経済成長には繋がらない。同様の状況は日本の金融市場にも当てはまり、市場の動きは非常に危うい。

一見よく見えても何か重大なアクシデントで上昇が帳消しになる可能性があるって事です。そのトリガーになりかねない要素を次は紹介します。

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ドイツが大規模な財政パッケージを発表した事によって、財政赤字と債務が危機的な状況に近づいている可能性があります。
・ドイツ国債の魅力低下: ドイツ10年国債の利回りが、同等のスワップ金利を上回り、過去最大のマイナス幅を記録。これは、投資家がドイツ国債の魅力を以前ほど感じていない事を示唆しています

  • 財政パッケージの背景: この財政パッケージは、当初は「防衛費」に充てる名目でしたが、実際にはウクライナ情勢を口実に経済を債務で膨らませる為のものだと批判されています。
  • 債務増加への懸念: 投資家は、ドイツの債務残高が少ない事を評価しつつも、債務増加を補う為に利回りの上昇を期待しています。
  • 政治的な駆け引き: メルツ首相が、退任する議会を利用して追加借り入れの余地を作ろうとしている事が、政治的な駆け引きを招き、債務問題の解決を更に困難にしています。
  • ECBの介入の可能性: インフレが高止まりする中で、ドイツの新規債務の利回りが手に負えなくなる可能性がある為、ECBが介入してドイツの財政赤字を貨幣化する可能性が指摘されています。
  • 結論: ヨーロッパは最悪のタイミングで国家債務危機に見舞われる可能性があり、ドイツの財政状況は非常に不安定であると結論付けています。

つまり、ドイツが発表した大規模な財政パッケージは債務増加への懸念を高め国債の魅力を低下させ、政治的な駆け引きを招き、最終的にはECBの介入を必要とするかもしれない危機的な状況を示唆しているという事です。

ゴールドマンサックスはドイツで合意された前例のない財政出動が段階的に実施されるとしても、銀行の成長、赤字、債務の予測に大きな上振れリスクを齎すと指摘。

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ドイツの10年債利回りが危険な兆候を示す

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上図に示すように、ドイツの10年債利回りは同等のスワップ金利を12ベーシスポイント上回る記録的な水準に達し、2007年以降最大の水準となりました。

スワップスプレッドと呼ばれる利回りとスワップ金利の差は、市場で債券の売却が更に増えると予想され、債券がスワップに対して弱くなる傾向がある為、将来の債券発行の重要な基準となる。

  • スワップスプレッドとは: 国債の利回りとスワップ金利の差の事。この差は、市場が国債をどのように評価しているかを示す指標となります。
  • スワップスプレッドが示す意味: スワップスプレッドがマイナスになる(つまり、国債の利回りがスワップ金利を下回る)場合、市場は国債の売却が増えると予想し、国債の価値が相対的に下がると考えている事を意味します。
  • 将来の債券発行への影響: スワップスプレッドは、将来国債を発行する際の重要な基準となります。スワップスプレッドがマイナスの場合、国債の利回りを高く設定しないと、投資家は国債を購入してくれない可能性があります。
  • 欧州のレバレッジ: ゴールドマン・サックスのアルベルト・バシス氏は、欧州が大規模なレバレッジ(借金)を行っている事を指摘しています。
  • 国債利回りの急上昇のリスク: 欧州が最も避けたいのは、国債利回りが急上昇する事です。国債利回りが急上昇すると、政府の借金コストが増加し、財政状況が悪化する可能性があります。最も避けたいのは国債利回りの急上昇が今起きているのです。

つまり、欧州は借金に頼って経済を支えている状況で、国債の価値が下がり、利回りが上昇する兆候が見られています。これは、欧州の財政状況が悪化する可能性を示唆しており、注意が必要です。

本日のドイツ国債利回りは+30bpsとなり、1990年以降で最大の上昇を記録しました。

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債券利回りが更に上昇すると、次の 3 つのシナリオが起こる可能性があります。

  • シナリオ1: ソブリン債危機勃発: 一部の国は利回り上昇により債務借り換えが困難になり、債券が大幅に売られる。財政状況が悪く、格付けも低い国は特に影響を受ける(EUの軍事再編計画の実行前に危機に陥る可能性)。このシナリオはユーロにとって弱気。
  • シナリオ2: ドイツによる救済: ドイツが自国の資金を使ってヨーロッパ全体を救済し、各国の債務を保証する。
  • シナリオ3: 市場の落ち着き: 市場が落ち着きを取り戻し、過剰な動きが部分的に解消される。
  • 債券利回りの上昇の影響: 債券利回りが上昇すると、政府が新たに債券を発行して資金を調達するコスト(借入コスト)が上昇します。これは、政府が景気刺激策や政策を実施するために必要な資金を調達する際に大きな制約となります。
  • レバレッジの制限: 現在の状況(債券利回りの上昇)は、政府が財政政策を通じて経済を刺激する「レバレッジ」効果を自動的に制限しています。
  • 財政出動計画の見直し: 政府が昨日発表した巨額の財政出動計画は、債券利回りの上昇により、その効果が薄れる可能性があります。もし今日のような利回り上昇が続けば、発表された計画は規模を縮小せざるを得なくなるかもしれません。
  • ユーロへの影響: シナリオ1のようにソブリン債危機が勃発すれば、ユーロは下落する可能性が高いです。

結論

債券利回りの上昇は、ユーロ圏経済、特に財政状況が脆弱な国々にとって大きな脅威となります。政府は利回り上昇を考慮しながら、財政政策を慎重に進める必要があります。

こうした要因で欧州の通貨高や株高を支えている反映している期待先行が萎むと株価は急落する可能性が高いです。