アメリカ、そしてウォール街のお正月

· 徒然ウォール街

アメリカでのクリスマスは一大イベント、しかしお正月は一瞬イエーイと叫んで終わり。翌日一月二日が仕事始めです。そして兎に角お金で全てが動くウォール街、年末年始に何が起こるのでしょうか?今回はそれらについてです。

アメリカの年末行事

一年の終わりを感じさせるのが先ずはサンクスギビング、11月終わりの感謝祭です。日本のお盆同様、家族が集まり多くの家庭でターキーをメインディッシュとした豪華な食事がもてなされます。そしてそれが終わると間髪入れず街中がクリスマスツリーで飾られ、一気に華やかな情景となります。そもそも宗教的な意義のクリスマス、家族としんみりが中心であり日本のクリスマスに見られる若いカップルの熱い情景とは全然違うものです。外食というより家族総出ですべてを料理するが基本です。


我が家でもすべて自家製料理

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クリスマスプレゼントはえてして親が子供達に買い与え、また夫婦間での交換が主でしょう。そして面白いのがシークレットサンタというもの。これはある程度人数がないとできないもので、大家族か職場で行われる場合があります。色々なやり方があるのですが、その一つはくじを引いて誰の為にプレゼントを買うか決めます。勿論くじで自分を引いてしまった人がいた場合はくじの引き直しです。そしてクリスマス当日に誰が誰の為にどのようなプレゼントを買ったかを公開。プレゼントをもらう人の事を思い予算内で何を買えばいいのか散々考える事になります。そして最悪とんでもないゴミプレゼント贈呈という事もあり得ます。何はともあれ実に笑えるイベントであります。プレゼント交換を午前中には終えて昼、夜とひたすら飲んで食ってで終わるクリスマスです。

多分世界一有名なロックフェラーセンターのクリスマスツリー

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私がまだ学生だった頃、アメリカ人の友人に家族中心の筈のサンクスギビング、そしてクリスマスに招待された事が何度もありました。それはえてして敬虔なクリスチャンの方で一人で寂しくしている人を積極的に呼び入れて一緒に祝うという感覚のようでした。キリスト教徒ではない私に宗教上の何かを強制されるとかそういうことも皆無、ただ温かく迎えてくれました。因みに日本を飛び出て、最初のサンクスギビングは一人でターキーサンドイッチを寂しく食べていました。しかし翌年からはサンクスギビングにしろクリスマスにしろ一人で過ごす事は無くなりました。お盆休みに一人でいる誰かを呼び込むとか日本では考えられません。アメリカのおおらかさを感じないではいられませんでした。

 

お正月

日本語ではお正月というめでたい形容が当たり前ですが、アメリカではただnew yearと暦上の区別はあるものの、お正月という言葉からくる特別な意味はあまり感じられません。そもそも元旦翌日から普通に仕事が忙しく始まります。年明け最初の週を休暇として休んでいる人もそれなりにいますが、特にトレーディング関連では市場が開いている都合上、のんきなことは言ってられません。大学院卒業後最初の職場が為替(FX)のトレーディング部だったのですが、12月、特にクリスマス前後はのんびりな感じでも一月二日はもう全く平日そのもの。日本でいう正月三が日という感覚は皆無でした。因みにそんな業界に30年以上いますが、未だに特に一月二日仕事始めはいい気がしません。

日本では一月いっぱいそれこそ再放送も含めて正月番組が延々と続いた記憶がありますが、ここでは元旦後最初の週末に、およそすべてのクリスマスツリー及び飾り物が綺麗さっぱりなくなります。年明け二週目にまで休暇を取る人はほぼ皆無、どの部署もすっかり平常営業です。

我が家では

おせち料理ですが今時NYCでならそれなりの物を日本食スーパー、レストランなどで買えます。日本食が大変人気のあるNYC、今や選べばかなりのものがあります。我が家では大みそかには年越しそば、そして正月は手作りおせち料理を振舞います。年末のカウントダウンパーティーとかはありがちですが、元旦は基本おとなしいというのが多くのアメリカ人の過ごし方でしょう。しかし日本人としてはやはり元旦のおせち料理です。

この鯛は日本食レストランから特別に仕入れた上物、昆布締めも超美味かった

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いい加減食べた後、我が家の茶室で薄茶を点てるJun

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ウォール街、年末年始の動向

お祝いモードでサンクスギビング辺り(11月後半)から休暇を取る人もありがちな年末ですが、ウォール街はこの時期ならではの忙しい事情があります。

人の少ない中、年内に片付ける筈だった仕事のおさらいがあり、ウッカリしているととんでもない事になりかねません。事業年度が暦の年と一致している為、売り上げにしろなんにしろ会計上年末の数字は大変重要です。日本でいう3月31日までに、という事でしょう。そしてもう一つ大きな動きが人事です。人を雇う筈だったのにそのまま年を越した場合、その席を失うというのが多々あります。どうしても雇わなければならない場合があり、あの手この手で兎に角人を雇います。12月というのはそういった事情で、実は会社を変わる人が意外と多い月でもあります。

さて、ウォール街はボーナスの割合が大きいのが特徴です。そして今やそれはビッグテックなどにも同様の傾向がみられるようです。有名なのはアマゾン創始者のジェフですが、彼の年棒は$81,840。今のレートで1300万円切ります。これつまり今時アメリカの大学新卒でもありうるレベルです。ただビッグテックの場合は会社のオプションなどが最も儲かるポイントで、そこはウォール街の会社とは大きく違う点でしょう。それはともかくボーナスはその年度、つまり1月1日から12月31日までの会社の成績及び本人の仕事ぶりで基本決められます。また年の途中に入社した場合はその日数によってボーナスカットされる場合もあります。このあたりは入社に当たって契約書などに明記してもらわないと、後でとんでもない事になりかねません。

ボーナス駆け引き

年末の決算確定後の大体1月末にボーナス支給となるわけです。しかし12月に会社を変わった場合その人を失った会社は当然去っていく元従業員にボーナスを払う事はよほど契約上の何かがない限りありえません。逆に受け入れ側ですが、12月に入社して翌月ポンとボーナスを出すというのはどういう事か、となるわけです。そもそも新入社員でありおよそ何の貢献もしていません。がしかしです。「だったら1月今の会社からボーナスもらってそのあとならそちらに転職できます」となるわけです。ここで問題なのは雇う側は年を開けたらその雇う席が年を超えて消えてしまう事情があり1月以降ではそもそも雇えない状況となるわけです。よってどうなるかといえば年末でもいいから年内に仕事始めとし雇う側がボーナスを翌月じゃーんと出す事を約束するわけです。勿論ボーナス支給後、既に決まっている転職先にさっさと移動というのも大変多く、2月は業界で大量の移動が始まる月でもあります。ただそのように待つ訳にはいかない部署は年末に外部から雇いかつその新人に多額のボーナスを1月に支払うのです。

因みにこの制度を知っている人の中には、それを悪用とまでは言えなくとも利用する人が当然出てきます。それは1年の成績がいまいち、あるいはボーナスを査定するのに最も影響力のある例えば上司と折り合いが大変悪くなり、とてもボーナスが期待できなくなってしまった人です。それで外部に仕事を探して「今の会社にいたらこれだけボーナスが1月にもらえるはず(本当はほとんど無しであるかもしれない事は当然伏せておく)。もしその額を1月ボーナスとして払うと契約書に書いてくれたら年末ながら今すぐそちらに入社します」というようなことを上手いこと吹っ掛けまんまと危機を乗り越えるです。

実はこのJunですが、正に12月の転職を今まで2回した事がありました。私の場合はくそ正直に本来予想される額を提示して契約上1月しっかりいただくという事でやりました。もっと思いきり吹っ掛けておけば良かったとも思えますが、やり過ぎは「こいつこれだけもらってこの程度か」という評価のリスクも忘れてはいけません。稼ぎの割に仕事は何これ、は解雇の対象になるリスクがあり、また吹っ掛けると言ういわば偽の価値を作り出す手法は性に合いません。

因みにボーナスはその提示額がすぐ使えるかといえば必ずしもそうでもありません。繰延報酬というやつです。よくあるのが1/3あるいは1/4ぐらいは今すぐ使える現金として支給。残りは一年ごと先に分割でやっと現金にできる物。もしボーナス支給後例えばすぐ退職した場合未払い分はパーになります。

私も当然転職の時はその未払い分をしっかり転職先に払ってもらうという条件でやってきましたが当然の事です。これは業界の習慣で結局一企業レベルで見た場合、去っていった従業員に未払い分は節約ということになりますが、代わりに誰かを雇う時は自分が余計な金を払う事になります。

よってこのような交渉は当たり前でその保証をしないような会社にはその時点でやめておいた方がいいかも、ということになりかねません。またあるいはその会社が自分をそこまで評価していない、という可能性も十分あり、やはりやめておいた方がいい、ということになります。

 

新年思いきり厄介なアメリカ事情

ボーナス云々の駆け引きはウォール街特有の事情などが絡みますが、年を越えて大きく変わりうる事の一つが健康保険です。このテーマは巨大で、ここではとても扱えませんが日本と大きく違い保険のない人が沢山いるこの国、基本は会社がいくつもの保険会社と駆け引きの上社員に提供という形となります。因みに天引きされる保険料は会社によって大変大きく変わります。給料によって額が変わる場合もあり、社員健康保険はただもあり、またいざ医者にかかった時に払う額も入っている保険によって大変大きく変わります。

同じ会社にいながらでも、毎年およそ10月ごろでしょうか、多くの会社で社員に保険の選択の機会を与えます。そして加入している保険を変える事がなくても、例えば今まで使っていた医者が年明けてから使えなくなる、というような不具合は日常茶飯事、とまではいかなくても今まで何度も経験しました。言い出せば切がありませんが、これがアメリカならではのとんでもない面倒な所です。

これまた余談ですが、あまりに保険制度が複雑な為、そこを悪用し詐欺を行う連中が後を絶ちません。

年が明けまた始まる日常

というわけでプライベートには家族が集まりプレゼント交換もあり、街もきれいに着飾りお祝いモードですが、年末は実は人事異動で様々な駆け引きが行われます。そして年が明けるや否や一揆にお祭りモードはおさらばで、また毎日どう儲けるかで皆さん頑張っていくのです。2025年、まずは首にならないように最低限は頑張っていこうという心構えであります。


Jun