西側がサプライチェーンの世界的な再編を行う中、中国が米国の輸入相手国トップの地位から転落しました。
近年、中国が経済を武器にしている事が判明し、米国政府が中国に対して貿易制裁を続けてきましたが、その効果が本格的に表れ始めた様です。
今年、米国の輸入相手国としての中国のシェアが15年ぶりに1位から転落する見通しです。(リーマンショックより以前の状態に)
1月から5月にかけて、米国の中国からの輸入は前年同期比25%減となり、中国の米国への輸出額はメキシコとカナダに抜かれました。
世界経済の4割を占める中国と米国の貿易に変化が起こり、国際貿易の構造が変わりつつある様です。
米商務省の貿易統計によると、1-5月期の米国の中国からの輸入額は1690億ドル(23兆5900億円位)で輸入総額の13.4%にあたり、前年同期を3.3ポイント下回り、過去19年間で最低の水準となっています。
日用品や電化製品など幅広い中国製品の輸入が減少し、半導体の輸入は制裁が効果的に行われ半減しました。
同期間、米国のメキシコからの輸入は過去最高の1950億ドル(27兆2317億円位)に達し、カナダも1760億ドル(24兆5784億円位)で中国を上回りました。
中国の対米輸出拡大に取って代わったのがASEANです。ASEANの1-5月の対米輸出は1240億ドル(17兆3166億円位)に達し、過去2番目の高水準、10年前の2倍の水準となりました。
米国の対中輸出は1-5月期で前年同期と同じ620億ドル(8兆6583億円位)でした。
対中輸出額はカナダ、メキシコに次ぐ第3位ですが、シェアは7.5%と両国の約半分となっています。
2009年に中国はカナダを抜いて米国からの最大の輸入国となりました。
リーマンショック後の不況で、高コストの米国製造業は競争力を失い、中国はその隙に補助金による低価格とサプライチェーンの集積効果により国際貿易における地位を向上させた結果です。
これにより中国のGDPは15年前の3.8倍、輸出総額は2.5倍に成長しました。
しかし、中国はリーマンショック後に西側を出し抜き、成長を支える為に借金を膨らませてきた事はあまり知られていません。
そしてその借金の多くは、北京から遠く離れた地方政府によって発行されていました。
その地方政府は最近限界を迎え始めています。
地方政府は中国国営銀行に借金をしています。
最近、ゴールドマンサックス等に一部の中国国営銀行が売りと格付けされた理由は、国営銀行が回収の見込みがない地方政府に多額に出資していて、やがて道連れになると判断しているから。
どうやらリーマン後からの無茶な借金頼りの国家運営のツケを払う時が来たようです。
頼みの綱は外国政府や企業からの中国への投資です。
https://youtu.be/5CNMQZ_TQEE
中国中央政府は最近、地方政府を見捨てようとしている動きを見せています。
最近、中国共産党監査委員会が「2022年度、中国地方政府が土地など国有資産の偽装売買で歳入を誤魔化していた」と地方政府の不正を発表しました。
地方政府は土地やその他の国有資産の売却を偽装し、収入を水増ししていた事が発覚。
70の地方政府が国有資産の「自己売買」や架空の土地取引を通じて120億ドル(1兆7,200億円位)の財政収入を改ざんし、その67.5%が県レベルで発生したと発表されました。
これは昨年の中国地方政府の財政問題が、殆どのエコノミストが考えていたよりも遥かに深刻だった事を表しており、公表されている公式データが既に昨年の土地販売と地方政府の歳入の急激な減少を示しているにもかかわらず、実際の状況は公式発表よりもさらに悪い事を表しています。
中国共産党監査委員会は6月26日「2022年中央政府予算執行及びその他の財政収支監査報告」を発表し、そこで70地区で国有資産の偽装売買や架空の土地取引が行われていた事を指摘しました。
これらの取引は地方政府機関自体の間で行われたものである為、実際に地方政府の歳入を増加させたわけではなく、単に資金を移動させたに過ぎないものでした。
※歳入を偽装し、財政が破綻している事を誤魔化したかったようです。
土地売却はこれまで地方政府の主要な収入源であり、土地売却に関連する収入は通常、地方自治体の税収の30%以上を占めています。
2019年から2021年の期間では、その割合は約40%にものぼります。
過去2年間、中央政府による不動産開発業者への取り締まりは全国的な不動産危機を引き起こしました。
これにより、地方政府の土地関連収入総額は2022年に前年比23%減少した事になっていますが、この数字にこうした架空取引を足すと、更に悲惨なものとなるようです。
ゼロコロナ政策による歳出の急増と、歳入の急減という状況は地方政府の財政を厳しい状況に追い込み、地方政府はそのギャップを埋めるため借入れを行ってきました。
地方政府は表向き直接国営銀行に借り入れをすることは出来ない為に、建設プロジェクト等の費用を賄うという名目でLGFV(地方政府融资平台)を利用する事が出来ます。
※LGFV(地方政府融资平台)とは投資会社の形態で存在し、債券市場で債券を販売し、不動産開発やその他の地方インフラプロジェクトに資金を供給します。
2019年度、LGFV債券は中国国内債券市場の社債発行残高全体の39%を占めていたと言われています。
LGFVを通じて得た融資は公的会計に記録されず、地方自治体にとって「隠れた負債」となっています。
ゴールドマン・サックスはこうした中国地方政府の負債総額は約23兆ドル(3200兆円位)位だと推測しています。
https://www.epochtimes.com/b5/23/6/27/n14023716.htm
米国政府はこうした中国の内情を把握しており、安全保障問題もあるので、今のうちにサプライチェーンを中国から移動させ、破綻に巻き込まれないようにしている可能性があります。
米国の輸入に占める中国のシェアは2015年から2018年にかけて約20%まで上昇しましたが、2017年に誕生したトランプ政権の政権運営期間中に減少に転じました。 米国の製造業の復活を目指すトランプ政権は、総額3700億ドルに上る中国からの輸入品に関税を課しました。
バイデン政権も対中関税も続けており、経済安全保障上の懸念を理由に、最先端の半導体や通信機器でも中国との関係断絶に動いており、半導体やバッテリーなど4つの主要分野におけるサプライチェーンの再編成を命じています。
米国企業も生産体制の見直しを始めており、 アップルは台湾などにある下請け企業に、生産拠点を中国本土から東南アジアやインドに移すよう働きかけています。
米国の大手衣料品サプライヤーであるギャップは、メキシコなどでの調達を拡大する予定です。
中国依存からの脱却は、消費者物価の高騰という形で米国に痛みをもたらしますが、チャイナリスク低減は米国議会で超党派の支持を得ており、友好国とのサプライチェーンを完成させる「友好国間アウトソーシング」構想は勢いを増してきています。
米国通商代表部(USTR)は「安価な商品の流入が我々の国全体を脆弱にしている」と述べ、中国製品が政府の多額の補助金によって米国の製造業を破壊していると指摘しています。
中国依存からの脱却の動きが米国以外にも本格的に広がれば、中国経済を牽引してきた輸出は上昇の勢いを失い、中国国内での生産性向上と内需拡大の必要性は更に高まるだろうと言われています。
しかしながら、中国政府のシンクタンクでもある清華大学の社会学教授は、中国国内の大規模集中消費時代が終焉を迎えた今、国外への輸出を増やすことができなければ中華は滅ぶと述べています。
現在の中国経済危機の根本的な原因は「絶対的な過剰生産」による経済危機だ、と清華の孫立平教授は指摘。
孫立平氏は、絶対的な生産過剰の要因を二つ挙げています。
第一に、20年以上続いた中国国内での大規模集中消費の時代が終わろうとしている為に、極端な生産過剰状態に中国国内がなっている事を挙げました。
特に3、4、5級都市では、不動産はすでに飽和状態。
2022年の中国での自動車の生産台数は2,702万1,000台、販売台数は2,686万4,000台で、現在の生産能力が6,000万台以上であるのに対し釣り合っていません。
低所得者層の消費ポテンシャルは高いが、主流消費者層はすでに飽和状態にあるというのが現実。
第二に世界の工場として機能出来ていない事です。
中国は今や世界最大の工場であり、多くの中国国内産業の生産能力は世界市場全体に向けて準備されてきましたが、様々な理由で外国市場を失っており(西側諸国が独自のサプライチェーンを作り始めた)、 内需ではカバーできない。
我々から見れば当たり前な理由ですが、中国共産党の頭脳でもある清華の教授がこうした発言をし始めたのは興味深いです。
この問題を解決するアイデアは何か?
孫立平教授は中国が今直面している本当の問題は過剰生産能力であり、内部的な大規模集中消費の時代の終焉であり、外部的な過剰生産の形成(西側の生産体制国内回帰など)という二重の圧力に晒されていることを理解しなければならないと強調しました。
中国企業の主な問題は、バランスシートを修復するために融資を受けないことではなく、生産能力を拡大するために融資を受けるが、商品が売れないことです。 特に輸出が駄目。
教授は歴史上の他国の教訓を見れば、不足の時代から余剰の時代への移行を前にして、いわゆる一夜漬けの景気刺激策は使えず、強引な景気刺激策の結果は逆効果になる可能性があると主張しています。
本当に必要なのは構造改革で、それは友好的な国際環境の創造を含め、可能な限り対外市場を維持すること。産業の高度化を実現し、過剰生産能力を排除し、さらには特定の低品質企業を排除すること。市場メカニズムを通じて、中小企業に活力を与え、可能な限り雇用を維持すること。可能な限り国民の利益と企業の利益との利害関係を調整し、住民の所得の一部の割合を高め、地域社会により多くの富と資源がもたらされるようにすること。 そうすることでしかこの危機を越えるための条件を作り出すことはできない、と結論付けています。
自業自得ですね。
独裁国家の利点を生かして、西側諸国に出来ないような無茶な貿易の仕方をして、借金に頼り問題を先送りし、経済を武器にして他国を脅かすなどしてきたツケが回ってきたと言えましょう。