中国企業Sheinは世界的なファストファッションの王者になろうとしています。
Sheinは僅か数年で世界一になりそうなレベルで急成長を遂げましたが、成長の原動力はTiktok等のSNSのインフルエンサーによる告知です。
Sheinの安さと可愛さに惹かれ、毎日 9,000 人近くの新しいオンライン ユーザーが増えていると言われています。
このブランドの製品はとても安くトップが 5 ドル、サングラスが 6 ドルで買えます。
しかし、この低価格実現にはどの様な魔法が使われているのでしょうか?
日本で想像できます?
Sheinは中国の小規模なサプライヤー集団(特に広州に集中している)向けの電子商取引プラットフォームです。
この形態をとる事により、洋服の製造コストを圧縮し、コストの一部をSheinの下請けのフランチャイズ サプライヤーに転嫁している様です。
この仕組みのおかげでSheinは1日9,000点の製品を提供でき、そのほとんどが非常に安価なコストで作られています。
しかし、「これらの製品の90%以上はまったく人気がないかもしれません。利益率を保証するために必要なのは、この内から生まれるいくつかの人気のある製品だけです。」と中国経済の専門家により指摘がなされています。
Sheinのサプライヤーはそうしたヒット商品を目指して、しのぎを削っているのでしょう。
では、運が良くなければ利益が見込めない激安商品の製造は誰がやっているのでしょうか?
スイス人権団体によるShein製造工場への調査
2021年5月、SheinアプリがAmazonアプリを抜いて米国で最もダウンロードされたショッピング アプリになりましたが、急激に成長したこの企業の内情を調べるためにスイスの人権監視団体(貧しい国の人権と環境を監視する団体)Public Eyeが中国の広州で実態調査を実施しました。
Public Eyeは調査結果を明らかにするレポートを発行し、華やかさの裏舞台の断片を明らかにしています。
Sheinの主な成功要因は以下の通りです。
☆コストがかかる店舗を維持する代わりに、サプライヤー集団を使い商品の直接配達を行う
☆オンラインツールの徹底的な活用によるトレンドの把握と商品への反映
☆アプリ内での購入とその自動分析
☆インフルエンサーのTiktokなどでの積極的な活用
☆広州にある小規模な中国企業サプライヤーを中心とした密度の高いネットワーク。
これらの中国企業サプライヤーはすべてShein独自のソフトウェアに組み込まれているため、注文はその中で自動的に分配されます。
これによりSheinは洋服のトレンドに非常に迅速に対応できています。
生産サイクルが3 ~ 4週間のZaraは、これまでファスト ファッションの代表格でしたが、Sheinはデザインからパッケージングまで1 週間以内に衣料品を生産できると豪語しており、業界の革命児だと言われています。
こうした素晴らしいシステムをお持ちのSheinですが、ここで最も重要な問題の1つは、低価格ブランドの衣料品がどこで、どのような条件で生産されているかという事です。
Sheinのシステムの屋台骨を支える各サプライヤーの労働者について、Public Eyeの調査員は「彼ら(Sheinの労働者)は1日11時間から12時間働いている」と指摘しています。
これはPublic EyeがSheinのサプライヤーを広州で合計17社探し出して、広州の番禺区の南村等でSheinサプライヤーの下で働く労働者にインタビューして聞き出した内容との事です。
彼らはすべて地方出身者だった様です。
Shein労働者が言うには「月に1回しか休みを取らないのが普通だ」と。
Public Eye調査官は、中国・広州の6つの工場から10人の労働者にヒアリングをしていますが、インタビューしたSheinの労働者の中に(経営陣と)契約を結んでいる者はおらず、社会保障給付を受けている者もいなかったとの事。
また、調査員がSheinサプライヤーの工場を訪れたところ、非常階段がなく、廊下がふさがれ、窓には鉄格子がついている建物があったとも。
Public Eyeが調査をしたのはSheinのサプライヤーの工場が集中する中国广东省广州市番禺区南村です。
動画でのこのエリアの様子⇩
広東省番禺がSheinの洋服の生産拠点というのは秘密でもなく、中国メディアでも報道されています。
その様子を先に見てみましょう。
中国メディア新浪財経のSheinの製造現場の紹介
「世界中で毎日数千万ドルを販売するSHEINの秘密は、広州にある300以上の工場に隠されている」
広東省番禺にはSheinのコアサプライヤーである縫製工場が300〜400社あり、そこで完成した衣料が夜間に佛山の大型倉庫に運ばれ、そこから世界中のSheinバイヤーに1つ1つ届けられるのです。
広東省番禺南村のある5階建てのビルでは数百人の縫製工が働いている。3階の縫製工場では、 男は素っ裸で、女はベストを着て、その日の仕事を早く終わらせるために、周りと競うように仕事をしています。
広州の番禺区には南村を筆頭に、この様な数百の縫製工場が点在している。
ある若い女性は工場でShein服の裾上げをする。ミシンを使って型紙通りに布を裾上げしており、「簡単な柄なら1日に1000枚、複雑なものでも300〜400枚は作れる。多いときは1日に8パターンの服を作ったこともある。」と話す。
一方、50歳の女性労働者は洋服のボタンを縫い付けたり、ジッパーをつけたり、端に余分な糸がないかチェックしたりする役割を担っています。
彼女は「Sheinからの注文は複雑ではなく、10年以上の手芸の経験があるので、ボタンを縫うだけで1日に300件ほど捌ける」と言っています。
彼女達には出来高払いが適用される。 1日10〜12時間働き、間に2回の短い休憩を挟み、夜は22時半まで働くことが多く、残業がないのは日曜日だけです。
中国メディアの報道は良い部分だけですが、実態はどのようなものなのでしょうか?
「Shein村」の安全性不足
広東省番禺南村のわずか数本の通りの中に数十の工房があり、そのほとんどが元住宅の建物を利用して設置されている。
工場の主人はこの村ではほとんど「Shein用」の衣料品しか生産していないと言っています。
このような小規模で非公式な生産拠点は、通常は地元のブランドに供給しているから成り立っている様です。
Sheinの洋服生産現場では服の入ったバッグや生地のロールが廊下や階段をふさいでいる。
例えば、7つの工房を持ち200人以上の従業員が働いているSheinの親会社Zoetopの主要サプライヤー企業の様子については、非常口が一つも見当たらず、火災が発生した際などは労働者がすぐに建物から出ることができないと報告がなされています。
Sheinはサプライヤー行動規範をホームページで公開していますが、そこで謳われている規範と実態はかけ離れている様です。
「問題になっているSheinのサプライヤーが賃金をまともに払っているかどうかについて」
Sheinサプライヤーの労働者へのインタビューによると、「衣料品1点あたりの賃金は、複雑な品物ほど高くなる。しかし、1着あたりの賃金は、これまで働いてきた他の場所よりもかなり低い。だが、期待される品質も特別に高いわけではない。」と述べています。
「良い月であれば、1万元(約197.800円)の手取りがあるが、悪い月ではその3分の1程度(約65.933円)になることもある。時間外労働の割増賃金もない。」との事。
彼らは雇用契約書を交わしておらず「こういう工場は契約書を出す必要がない」そうです。
従業員が100人を超える企業で契約書を発行しないことは、日本では考えられないかもしれません。
中国の労働法でも一応、従業員に契約書を発行することが義務付けられていますが、この規模の企業は、「契約の不履行を理由に訴えられても多額の補償金を支払う義務を負わない」事になっており、これがこうした状態の理由だそうです。
Sheinは末端の労働者に対する責任を負いません。
WeChatではSheinが生産要件を公表し、メーカーが入札できるような投稿が多数なされており、製造会社はSheinが紹介するサプライヤーから、希望のデザインに合った生地を自ら購入しています。←(※話が逸れますが、Sheinが紹介している生地サプライヤーが新疆から輸入していないかは調査する価値があります。)
これにより、Sheinはこうしたサプライヤーの労働条件に対する責任を負うことなく、サプライチェーン全体をコントロールすることができるのです。
こうして製造会社に丸投げすることで、Sheinの洋服を作る為に作業をしている地方出身の出稼ぎ労働者には雇用契約はなく、被雇用者は誰も社会保障を受ける権利がない状態が出来上がっている様です。
広州のShein労働者を襲う更なる苦難
Sheinの従業員たちは最近、そして現在も続いている出来高払いの単価引き下げ(今までも調子が悪い月は、月一休みで月収約65.000円位だったのに)と、広東省番禺の生産拠点では複雑な部品しか生産されなくなり、簡単な仕事はもっと単価が安い地域に流れている傾向を心配しています。
簡単な仕事は、広州より賃金の安い江西省、広西省、湖南省などに外注されることが多くなっているのだという。
広東省番禺南村のShein洋服製造工場の横には、別の省の各市町村名が書かれたミニバンが待っている。
これは内地で生産される予定の裁断済みの布を運ぶ「タクシー」のようなもので、どんな条件で、どんな賃金で生産されているかはわからない。
今ですら激安の給料が、他の省の業者との更なる価格競争に晒されており、底なし沼の様に給与が下がっている様に見えます。
広州郊外の倉庫で長時間の作業
Public Eyeの調査で広州の工場から車で1時間ほどの佛山に、Sheinの「アンボ」と呼ばれる巨大な倉庫がある事が分かりました。
約1万人の従業員を抱え、24時間、365日稼働しているとの事。
Public Eye調査員がこのSheinの倉庫を調査したところ、倉庫での労働時間は非常に長く、平時で1日12時間程度、ハイシーズンには14時間にもなり、従業員の労働日数は最低でも月22日、多くは月24日から28日ですと。
これは主に、月に23日目出勤すれば、それ以降に受け取る単価が2倍になる為。
労働者は1つの仕事を2つ掛け持ちすれば、平時で7,000元(約13.8万円)、繁忙期には50%増という魅力的な収入を得ることができるから無理をしてでも働くようです。
この労働時間は中国の労働法に違反しています。
このスイスPublic Eyeによる調査で見れた範囲は限定的かもしれませんが、Sheinの製造現場の現実が垣間見えましたね。
Sheinの異常な洋服の価格(数百円のTop等)を考えると、次元を超えた超低賃金労働だろうと予想していた人には、思ったより収入が発生していて意外だったかもしれません。
出稼ぎ労働者はSheinの衣料品を生産することで、かなりのお金を稼ぐことが出来ている様です。
Sheinのサプライヤー行動規範では下請け業者に「現地の法律、規則、政府命令、および規制要件に完全に準拠して業務を行う」ことが要求されていましたが、これはあってないようなものでした。
Sheinの作業員は1日12時間(控えめに見ている)、月に29日働いているとすると、月の労働時間は348時間。
給料はアベレージ10万円程度とすると、、時給は287円。
1日1000枚を仕上げるとすると、一時間あたり83着を仕上げる。
すると一着あたりの報酬は3.4円。
だいたい報道に近いかもしれません。ここに広州より更に田舎が参入してきて、更に一枚あたりの単価が下がりつつあります。
こうした労働状況とSheinの数百のサプライヤーが何をしているのか不明な状態と利益最優先の状態が、発がん性物質を含む洋服がSheinで売られていた背景にあると思われます。
Shein から購入した幼児用ジャケットにカナダ保健省の安全規制で許容される量の約20倍の鉛が含まれていた
Sheinの洋服をトロント大学のミリアム・ダイアモンド教授が監督するテレビドキュメンタリー番組が調査したところ、カナダ保健省の安全規制で許容される量の約20倍の鉛を含む幼児用ジャケットを販売したことが指摘されています。
同じくSheinから購入した赤い財布には、安全規制で許容される量の5 倍以上の量の鉛が含まれていました。
衣類に高レベルの化学物質が含まれているとは何事かと騒ぎになり、
ダイアモンド教授は「これは有害廃棄物です」と警告。
鉛は、脳、心臓、腎臓、生殖器系に有害な健康影響を与える可能性があり、カナダ保健省のウェブサイトによると、子供や妊娠中の人はより脆弱であり、乳幼児が最も危険であるという。
番組では「明らかに意図的に鉛を使用し、安全とみなされるべきレベルをはるかに超えた方法で鉛を使用した製品があったのです」「最終製品が私たち消費者にとって安全でない場合、これらの化学物質を扱っている労働者も間違いなく安全ではありません」とも解説がなされました。
ダイヤモンド教授は「私たちは信じられないほど短いファッションサイクルの中で、かわいくてファッショナブルに見えるものを買っていますが、そのコストは割に合いません」と結論付けた。
日本にもSheinの洋服はかなり入ってきているようですが、こうした安全性は果たして大丈夫なのでしょうか?
また、Shein生産工場がある広東省の深圳(アパレル製造で有名)でもこんな事件が・・・
中国国家市場監督管理局がアパレル製造工場の抜き打ち検査を行ったところ、一部の女性用衣類が発がん性規制値を20倍以上上回っている状態で生産されていたことが判明しました。
これも大問題となり、中国国営CCTV(中国中央電視台)が報道する事態となりました。
こうした事から見られるように、中国の洋服の汚染はかなり広がっていると思われます。
更に・・・
新疆ウイグル産の綿をSheinが使っていた事もBloombergの調査で判明
以前から分かっていた事ですが、BloombergがShein製品を購入し、繊維の分析を行い、それらが中国の新疆地域の綿から作られている事を実証してくれました。
つまり、SHEINは新疆からの綿製品米国輸出の抜け穴でした。
ここまで問題化し、米国政府が禁止している新疆綿も使っていると証明されたのに米国は何をしていたのでしょうか?
それには秘密がありました。Sheinは法律の抜け穴を活用していたのです。
Sheinのビジネスモデルは、仲介業者を介さずに製品を顧客に直接販売することです。
この為、米国市場へのSheinのそれぞれの出荷は、バラバラかつ800ドル以下となっています。
800ドルを下回る荷物は米国税関国境警備局に報告する義務が発生しません。
税関のデータによると、このような小包が毎日約270 万個米国に到着しており増加しているとの事。
中国国家統計局によると、昨年、中国の綿花生産の 87% が新疆ウイグル自治区からのものです。
Sheinが新疆綿を使っていることは明らかですが、この様な抜け穴を使われ野放しとなっています。
もし、米国政府がここにメスを入れればSheinは最大のマーケットを失い終わりです。
こうして大騒ぎになっている以上、それは時間の問題に見えます。
この話は端的に言うと
Sheinは中国の田舎町の衛生状態が悪い工場(洋服から基準値を超える鉛が検出されたり)で、出稼ぎ労働者に月1休みの成果報酬(月収6万円~15万円程度)といった形で泥臭く働かせていますが、その状態をTiktokやYouTubeのキラキラ女子に宣伝させて、素性を包み隠している。
おまけに米国政府が制裁対象としている新疆綿で作られている。
「私たちひとりひとりも考えないといけない事があるのではないでしょうか?」